銀の風

四章・人ならざる者の国
―49話・気分も新調―



―武器・防具屋「モグラ堂」―
消耗品の補充はかさばるので後にして、
そろそろ新しい武器や防具が欲しいのでまずはこちらから覗くことにした。
「なんだか、店の名前とお店がぴったり過ぎるって言うか、
けっこうそのまんまだよね……。」
アルテマの感想が指すとおり、この店は名は体を表しているという言葉そのものの店構えだ。
看板はちゃんと外に出ているのだが、店本体はなんと地面の下の地下室にある。
いや、地下室自体は珍しくないのだが、この店は地上部分がそもそもない。
「でも、地下室なのにとっても明るいよ?」
フィアスが言うとおり、店内は地上の店舗のような明るさだ。
バロン城の地下倉庫などを見たこともある彼には、違和感を覚える光景に映る。
「特別な照明なんですか?」
「まあ、店が暗いと客が入りにくいから、なんか魔法の道具を使ってると思うぜ。」
リトラが投げやりな見立てをよこしてくる。
彼はルーン族なのだから魔法の道具に詳しそうなものだが、
説明は今回面倒なようだ。
“ヴィボドーラって、魔法の道具を使うの?”
「そうやでー。魔法が得意な種族もたくさん住んどるから、結構売ってるんや。
だから、結構普通に使っとるんやで。」
“そうなの!面白いわね〜。”
魔法の品には縁がないポーモルはびっくりするしかない。
ところ変われば品変わる。生活の常識まで違うのだから面白いだろう。
「珍しい武器ばかりかと思ったら、他の国で見たような品物もありますね。」
「単に、人間型が住んでるからじゃないの〜?」
意外だと驚くジャスティスに、商品を物色しながらナハルティンが言った。
品物は色々揃っていて、人間型ではとてもサイズが合わない武器や防具も数多い。
しかしどれもよく鍛えられていて、かなり頼りになりそうだ。
「うーん、剣もちゃんとあるみたいだし……どれにしよっかな〜?」
「アルテマお姉ちゃんだったら、強いのがいいと思うよー!」
「そうだよねー、後はやっぱり使いやすいといいかな〜。」
良品に目移りしながら、アルテマもフィアスも楽しそうに選んでいる。
もっともフィアスは、まだ自分の武器は選ばない様子だが。
だが彼は自分では良し悪しがあまりわからないらしく、
いつも半分人任せなので、他の人間があらかじめ見繕っても関係ないだろう。
「あいつらの分は買い換えるの決定として……おれはどうすっかな。
やっぱ買うか?」
「せやな。あんさんの斧も、そろそろ買い替え時やで。
この先、何が襲って来るかわからへんもん。」
ヴィボドーラでは、街道から離れなければあまり気をつけなくてもいいが、
またよそに行くときは前と同じ状態に戻るのだ。
買えるときにきちんと買って、備えておくのが無難だろう。
この前生死の境をさまよう羽目になったリトラには、
先がどうなるか分からないことが嫌と言うほど分かっているはずだ。
「だよなぁ……この際、全員いいのに買い換えちまうか?」
「武器のお話ですか?」
一人ごちるリトラの言葉を聞いて、ペリドが話しかけてきた。
「あ、防具もだよ。ほら、やっぱいっぺんに買いたいだろ?」
「それはそうですけど、お金は足りそうですか?」
「まーな。もし換えた分が足りなきゃ、また両替してくるから安心しろよ。」
節約したりして溜めたお金は、決して少なくはない。
宿代などは別に分けているから、その点も心配は要らないのだ。
「じゃあ、私もせっかくですし……新しいブーメランを選びますね。」
「そういえば、何でお前ブーメランなんだ?
使ってんのあんまりみねーけど。」
いわゆるその辺の雑魚モンスターを倒す時でも、
他の仲間が先に片付けてしまうせいか、ペリドが武器を使う様子はあまり見かけない。
彼女は後衛でサポートにまわることも多いので、余計にだ。
「えっと、実は飛んでる姿が好きで……。
それだけなんですけど、やっぱり変ですか?」
「いや、別に?」
ちょっとはにかんで理由を教えてくれたペリドが、
何故恥ずかしそうなのかリトラはよくわかっていなかった。
真面目なペリドにとっては変でも、
彼は気に入った武器なら別にいいんじゃないかという認識なのだろう。
「とにかく、遠慮しねーで良さそうなの見つけたらもってこいよ。」
リトラはそう言って、他の仲間と同じように自分も装備の物色を始めたのだった。

しばらくすると各々欲しい物が決まったらしく、
リトラの所に持ち寄って支払いの計算を始めることになった。
武器や防具の買い物となるとやはり欲が優先するのか、
あまり値段を考えないメンバーも中にはいるようだが。
「ねぇねぇ、みんなの分ちゃんと買えそう?」
「待ってろよ。今計算してるんだって。
えーっと……5500ギルのが……。」
ぶつぶつ言いながら、暗算で計算を進めて各々が持ってきた品の品名と金額を書き出していく。
最後に合計したらいくらになるかは分からないが、
結構な散財になることは計算しながら予測がついていた。
「うっ、もしかして結構いっちゃうわけ?」
リトラの手元のメモをのぞきこんで、アルテマが引きつった。
「いいけどよ、当分買ってなかったし。」
普段はケチでも、必要な時なら太っ腹。
それが鉄則なのでいちいち目くじらは立てないらしい。
だが、やはり金額がかさむのであまり芳しい様子でもないが。
アルテマはその様子にちょっと後ろめたさを覚えたが、知らんぷりを決め込んでいる。
最初からあまり買う気がなさそうだったジャスティスなどは、
むしろこの途中結果を見て、何か売れるものはないか探しているが。
「今まで使っていた武器は、買い取っていただけるでしょうか?」
「たぶん大丈夫やと思うけど、見てもらわへんとな〜。
でもなぁ、お金の心配なんてリトラはんに任しとき!」
子供はそもそもお金の心配なんてするもんじゃないと思っているのか、
リュフタの発言からは何となく太っ腹な匂いが漂う。
とは言っても、実際に支払うのはリトラなのだが。
(調子いい事言ってんじゃねーよ、穀潰しウサギリス……!)
(あっはは〜♪ガンバレー、リーダー君♪)
こっそり毒づくリトラを茶化して、ナハルティンはケラケラ笑っている。
いっぺん殴りたい衝動に駆られた気がするが、見ない振りをした。
構えば馬鹿を見るのは分かりきっている。
もっとも、そうやって無視されたナハルティンは少々つまらなそうだ。
リトラの知ったことではないが。
「……よし、計算終わったぜ。」
「いくら?」
筆記具をしまったリトラに、フィアスが恐る恐ると言った風情で聞いてきた。
リトラはそれに真顔でこう答える。
「46700ギル。」
『高――っ!!』
異口同音に上がる驚愕の声。
高くなるだろうとは誰もが予測していたはずなのに、
いざ具体的な金額を示されると驚いてしまう。
「ほ、本とにそんなにはらえるわけ……?」
「払えなかったら、持ってきた時に言ってるっつーの。」
値札がついているのだから、ざっと見れば払えそうか否かの見当くらいはつく。
リトラはそこまで馬鹿ではない。
アルテマやジャスティスなどに手伝わせて、
支払いを済ませるついでにいらなくなった装備の下取りもしてもらった。
そして一行は、すっかり軽くなった財布と、新品ぴかぴかの装備を手に店を後にした。

「それにしても、こんなにいっぱいお金使ったのって久しぶりやな〜!」
「何で微妙にうれしそうなんだよ!」
大金が飛んだのに何がいいんだと、リトラは声を大にして叫ぶ。
「だって、うちはけちけちするより、どーんと景気よく使ってくれはる方が好きやもん。」
「それお前んちが雑貨屋だからだろ?!」
悪びれないリュフタにリトラがまた怒鳴った。
彼女は割と財布の紐がゆるいのか、
店側の立場で言っているだけなのか不明だが、どちらにしろ金銭感覚では相容れないようだ。
「えっ、幻獣ってお店とかあるの?」
「あるで〜。幻獣達も買い物くらいはするし、図書館もあるんや。
アルテマちゃんにはちょっと難しい本やけど、貴重な資料もたくさんあるんやで。」
幻獣の図書館は、古い時代の知識がたくさん収められた博物館のようなものだ。
リュフタがいうとおり、子供が詠むと持て余してしまう本ばかりだが、
人間の学者には垂涎の的のような本がたくさんある。
「幻獣の図書館なら、私も行ってみたいです!」
「お〜、勉強熱心やな〜♪」
図書館に興味を示されたことが嬉しいのか、リュフタは機嫌がいい。
「幻獣の図書館ですか……私も一度行ってみたいですね。」
「アンタの羽が伸びる方法は書いてないと思うけどね〜♪」
「そ、そんな事思ってませんよ!!」
全く思っていなかったといえばウソになるが、
主に知的好奇心から出た言葉を邪推されて茶化され、ジャスティスは肩を怒らせて怒った。
いつもの事だからいい加減慣れればいいのに、
ジャスティスは律儀に毎回怒るものだからからかわれる。
生真面目ゆえの災いとでも言うべきだろうか。
「おい、ケンカしてねーでさっさと宿……じゃなかった広場に行くぞ!」
こちらが買い物をしている間に、
恐らくルージュはとっくに宿を取っていることだろう。
遅くなって嫌味を言われるのもしゃくなので、道草を食いたくはない。
「はいは〜い。ちぇー、面白いのにな〜♪」
「後でやってろ、後で!」
「後でもいやですよ!」
後でも前でも、とにかくからかわれるのはごめんだと、
ジャスティスは当事者としてはごもっともな言葉を叫んだ。

―広場―
大きな池と大きな木が目印の広場に着いたリトラ達は、迷わず木の下に向かった。
別に示し合わせていたわけでなくても、
待ち合わせといったらとりあえず目立つところを目指すに限る。
「大体予想通りだったな。いい装備は買えたのか?」
「おう。あ、おまえのはサイズとか好みあるから買ってねぇけど。」
「別にいいぜ。後で自分で行く。」
ルージュは全然気にしないようで、
合流した仲間達を案内すべく先頭に立って歩き始める。
「あ、ごめーん!アタシこっそりルージュの分混ぜちゃった〜♪」
「はぁ?何買ったんだよ。」
てへっと悪びれないリアクションを取ったナハルティンに、
ルージュは思いっきり呆れた視線を送る。もちろん彼女は全く気にしていないが。
「これ〜。別に邪魔にはなんないでしょ。」
ナハルティンが自分の荷物から出してきたのは、防御の力を持った首飾りだ。
体力がないフィアスやペリド、ジャスティスも同じ物を買っている。
「俺は別に他の防具だけで十分なんだけどな……。
まあいい、もらっておく。」
「アタシの愛をオマケしとくよ〜ん♪」
「それは遠慮する。」
速攻でルージュが切り捨てると、冗談だってばとナハルティンがケラケラ笑い出す。
相変わらず、テンションが違うのに妙にうまく行くコンビだ。
「ルージュもよくやるよな……。」
「あのテンション、ウザくないわけ?」
「別に。」
ハイテンションな相手によくついていけるなと、
リトラとアルテマに言われても、ルージュは大して気にも留めていない。
そういう相手だと割り切っているのか、意外にもああいう性格が大丈夫なのか。
未だによく分からないところである。
「どんな宿屋なのかな?ちょっとドキドキする〜。」
「そうですね。ルージュさん、どんな所にしたんですか?」
「お前らがいるから、人間型向けのところだ。」
今度もルージュはそっけない。昼間占い師として彼が働いている光景を見たことはないが、
無愛想な彼にどうして勤まるのか、リトラはふと気になった。
それとも、客の前でだけ愛想がいいのだろうか。
あまり想像はしたくない気もしたが、
商売にはシビアそうなルージュのことだから、営業スマイルくらいはちょろいのかもしれない。
そんな取り留めのないことを考えたり、あるいは雑談したり。
そうこうしているうちに案内された宿屋は、
ペリドに言ったとおり、人型の種族でも入りやすそうな石造りの建物だった。



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買い物と宿屋へGOで終わってますが、案外話を書いてると彼らはいつ装備を新調してるのか謎になりますね。
ヴィボドーラでの本格的な活動は次からです。
色々書きたい部分はあるんで、くどくならないように入れたいところですね。